第1話 布をかぶった200万円のワープロ

トッティー
一心舎では、昔はタイプライターを使って原稿を作っていたんだよ。
といっても、これは僕が一心舎で働き始める前の話。ただ、当時は会社と自宅が一緒だったから、仕事場の様子は子どもの頃からなんとなく見ていたんだ。
といっても、これは僕が一心舎で働き始める前の話。ただ、当時は会社と自宅が一緒だったから、仕事場の様子は子どもの頃からなんとなく見ていたんだ。
チャッピー
従業員として働いてはいなかったけれど、一心舎の仕事はいつも身近にあったんですね。


トッティー
そう。僕が小中学生の頃は、まだタイプライターの時代だった。当時の一心舎にはタイピストが10人くらいいて、みんなが仕事をしている姿を、僕もなんとなく覚えているよ。
文字はタイプライターで打つ。でも、表などの線までは引けないから、線は定規を使って手で引いていた。線を引く専門のスタッフもいたんだよ。
文字はタイプライターで打つ。でも、表などの線までは引けないから、線は定規を使って手で引いていた。線を引く専門のスタッフもいたんだよ。
チャッピー
文字を打つ人と線を引く人が、それぞれの技術を使って一つの原稿を仕上げていたんですね。


トッティー
今なら一人でできる作業を、何人もの人が分担していたんだね。
そして、文字入力から組版、出力までを一台で行う、パソコン以前の業務用専用機が登場した。親父が一心舎に導入したのが、Canon EZPSという電子編集印刷システムだったんだ。
そして、文字入力から組版、出力までを一台で行う、パソコン以前の業務用専用機が登場した。親父が一心舎に導入したのが、Canon EZPSという電子編集印刷システムだったんだ。
チャッピー
このEZPSは、いくらくらいしたんですか?


トッティー
一台200万円。かなり高価な道具だった。
チャッピー
200万円ですか。それなら、みんなが競って使いたがりそうです。


トッティー
ところが、まったく逆。誰も使おうとしなかったんだ。
それまでとは、仕事のやり方があまりにも違う。操作も分からないし、本当に役に立つのかも分からない。みんな、その新しい機械に違和感があったんだと思う。
それまでとは、仕事のやり方があまりにも違う。操作も分からないし、本当に役に立つのかも分からない。みんな、その新しい機械に違和感があったんだと思う。
チャッピー
新しいから便利、とはすぐには思えなかったんですね。慣れた方法のほうが、速くて確実だったのでしょうね。


トッティー
そうだと思う。だから、その200万円のワープロには、しばらくの間ずっと布がかぶっていた。
高価な機械なのに、誰にも相手にされず、ただそこに置かれていたんだ。
高価な機械なのに、誰にも相手にされず、ただそこに置かれていたんだ。
チャッピー
布をかぶった200万円のワープロ……。そのままずっと使われなかったんですか?


トッティー
いや。親父が、社内で一番若かった女性スタッフに「これを使ってみないか」と勧めたんだ。
もちろん、最初から使いこなせたわけじゃない。少しずつ操作を覚えて、仕事の中で試しながら、だんだん使えるようになっていった。
もちろん、最初から使いこなせたわけじゃない。少しずつ操作を覚えて、仕事の中で試しながら、だんだん使えるようになっていった。
チャッピー
親父さんが新しい機械を入れ、若いスタッフが最初に布を取って向き合ったんですね。


トッティー
そう。その一人が使い方を覚えると、ワープロでできる仕事が少しずつ増えていった。
そして、いつの日か、そのワープロが一心舎の仕事の主力になっていたんだ。
そして、いつの日か、そのワープロが一心舎の仕事の主力になっていたんだ。
チャッピー
誰にも使われなかった機械が、なくてはならない道具になった。機械は同じなのに、ずいぶん運命が変わりましたね。


トッティー
ただ、ワープロが主力になった頃には、それまでいたタイピストは、もうほとんど残っていなかった。
線を引く仕事をしていた正社員のスタッフも、毎日鉛筆を削ることが日課になっていたそうだ。
線を引く仕事をしていた正社員のスタッフも、毎日鉛筆を削ることが日課になっていたそうだ。
チャッピー
新しい技術が入ると、道具だけではなく、人の仕事や役割まで変わってしまうんですね。


トッティー
うん。だから、今までの方法を知っている人が新しいものに戸惑うのは、自然なことだと思う。
でも、どれほど高性能で高価な機械でも、布をかぶったままでは何も変わらないんだ。
でも、どれほど高性能で高価な機械でも、布をかぶったままでは何も変わらないんだ。
チャッピー
新しい技術を動かすのは、機械の性能だけではなく、「まず使ってみよう」と手を伸ばす人なんですね。


トッティー
そういうことだと思う。
そして、親父が導入したワープロも、やがて次の変化を迎える。
最初に使い始めた若いスタッフが50代になった頃、僕が一心舎に入社した。世の中ではMacとAdobeが使われていたけれど、一心舎ではまだワープロ専用機が主力だったんだ。
そして、親父が導入したワープロも、やがて次の変化を迎える。
最初に使い始めた若いスタッフが50代になった頃、僕が一心舎に入社した。世の中ではMacとAdobeが使われていたけれど、一心舎ではまだワープロ専用機が主力だったんだ。
チャッピー
そこで今度は、トッティーが新しいものを持ち込む側になるんですね。


トッティー
そう。でも、そのMacもすぐに歓迎されたわけじゃなかったんだよ。