新しいものを受け入れる人と、受け入れない人 第2話

第2話 ワープロからMacへ

チャッピー
前回は、誰にも使われず布をかぶっていた200万円のワープロが、やがて一心舎の主力になった話でした。
チャッピー
トッティー
トッティー
そう。親父に勧められて最初にワープロを使い始めた女性スタッフも、僕が一心舎に入社した頃には50代になっていた。

その頃にはワープロ専用機をすっかり使いこなし、一心舎の仕事を支えるベテランのオペレーターになっていたんだ。
チャッピー
第1話では新しいものに挑戦する側だった人が、長い年月をかけて、その技術の熟練者になったんですね。
チャッピー
トッティー
トッティー
でも、世の中はもう次の時代へ進んでいた。

すでにMacが登場していて、プロの制作現場ではAdobeのソフトなどを使った仕事が広がり始めていた。でも、一心舎ではまだワープロ専用機が中心だったんだ。
チャッピー
それを見て、トッティーはどう思ったんですか?
チャッピー
トッティー
トッティー
「このままでは、一心舎が取り残される」と思った。

僕は昔から新しいものが好きだから、新しい機械を見ると、まず触ってみたくなるんだ。そこで最初に導入したのが、ボンダイブルーのiMac G3だった。
チャッピー
あの青くて丸みのある、一体型のiMacですね。すぐに仕事で使い始めたんですか?
チャッピー
トッティー
トッティー
ところが、そう簡単にはいかなかった。しばらくの間、iMac G3を触っていたのはほとんど僕だけ。

仕事の主力になるどころか、僕のおもちゃみたいになっていたんだ。

誰にも使われず入社当時のトッティーのおもちゃになっていたボンダイブルーのiMac G3
チャッピー
第1話の、布をかぶっていたワープロとよく似ていますね。でも、iMac G3は仕事用にはしなかったんですか?
チャッピー
トッティー
トッティー
iMac G3は、まず僕が新しい世界を知るための機械になった。その後、本格的に仕事で使うために、Power Mac G4を導入したんだ。

でも、仕事用のG4を入れれば、すぐにみんなが使ってくれるというわけでもなかった。
チャッピー
今度は、仕事用として導入したのにですか?
チャッピー
トッティー
トッティー
うん。一心舎は文字ものの仕事が多くて、特に表を作る仕事をたくさん扱っていた。当時Macで使っていたQuarkXPressは、そうした表の制作にはあまり向いていなかったんだ。

ワープロ専用機なら長年の経験がある。どうすれば速く正確に作れるか、オペレーターは全部分かっている。それをG4とQuarkXPressに変えたら、操作は一から覚え直し。それなのに、今まで簡単にできた表が作りにくい。当然、評判はよくなかったよ。
チャッピー
新しいものを受け入れたくないというより、仕事の道具として納得できるだけの便利さを、まだ感じられなかったんですね。
チャッピー
トッティー
トッティー
まさにそうだと思う。現場からすれば、使い慣れた専用機のほうが仕事をしやすいんだから。
チャッピー
それでも、G4への移行を諦めなかったんですね。
チャッピー
トッティー
トッティー
うん。そこは諦めなかった。

ただ、僕はワープロ専用機の時代はいずれ終わると思っていた。今は仕事ができていても、世の中の制作環境が変われば、いつかデータの受け渡しも難しくなる。一心舎だけが同じやり方を続けるわけにはいかないと思ったんだ。
チャッピー
それで、ワープロ専用機のオペレーターを説得したんですね。
チャッピー
トッティー
トッティー
うん。すぐに「分かりました」とはならないよ。これまで積み上げてきた技術があるし、実際に専用機で仕事を完成させているんだから。

それでも、これからはMacが必要になること、専用機だけを使い続けることには限界があることを伝えて、少しずつ使ってもらうようにした。

ワープロ専用機の女性オペレーターにPower Mac G4の使い方を説明する入社当時のトッティー
チャッピー
新しい機械を入れることより、使う人に納得してもらい、一緒に覚えていくことのほうが大変だったんですね。
チャッピー
トッティー
トッティー
そう思う。新しいものが好きな僕には、次の可能性が先に見える。でも、今の道具で毎日の仕事をしている人には、変えることの不便さや怖さが先に見える。

どちらかが間違っているわけじゃない。見えているものが違うんだよね。
チャッピー
昨日までの新しい技術も、いつかは変えられる側になる。ワープロも、ずっと最新の道具ではなかったんですね。
チャッピー
トッティー
トッティー
タイプライターからワープロへ。ワープロ専用機からMacへ。

新しいものが現れるたびに、同じような戸惑いが起きる。そして今、僕たちの前にはAIがある。

また、同じことが始まっているのかもしれないね。

つづく