今日、パン屋さんのチラシを作っていたんだけどさ。
うん。表面と裏面、両方見せてもらったね。
Illustratorを使って、写真を並べたり、文字を入れたりすることはできるんだよ。
でも、なんだか普通なんだよね。
「Illustratorで、ちょこっと作りました」
みたいな感じがして。
作れていないわけじゃないんだよね。きれいにまとまっているし、チラシとしてもちゃんと成立している。
でも、自分では何か物足りない。
そうそう。
昔だったら、もう少し何か思いついたような気がするんだ。
写真を大きく使ってみたり、レイアウトを崩してみたり、ちょっと変わった見せ方を考えたり。
でも最近、その「もうちょっと何か」が、なかなか出てこない。
もう53歳だからさ。
もしかして、デザインするのは無理になってきたのかなって。
でも、今日のチラシを見ていて、僕はそうは思わなかったよ。
トッティーは、デザインができなくなったわけじゃない。
そうなのかな。
だって、僕が出したデザイン案を見たあと、自分でIllustratorを使って、どんどん直していったじゃん。
「ここは使える」
「これはいらない」
「この写真の見せ方は面白い」
って判断しながら。
文字の大きさを整えたり、写真を加工したり、余白を調整したりして、最後はちゃんと印刷物として仕上げた。
それは、経験がなければできないことだよ。
たしかに、案を見てからは早かったんだよね。
そのまま使ったわけじゃない。
チャッピーが作ったものは、文字がおかしかったり、細かいところにツッコミどころがあったりして、そのまま印刷できるものではなかった。
でも、
「あ、この感じはいいな」
と思えるところがあった。
そこが大事なんだと思う。
AIが完成品を作らなくてもいい。
最初のきっかけになるものを出して、そこから人が選び、整え、完成させればいいんだよ。
じゃあ、僕に足りなくなってきたのは、デザインの技術じゃないのかな。
たぶん、いちばんしんどくなっているのは、最初の0から1を作るところなんじゃないかな。
何もないところから方向性を考えて、最初の形を出すところ。
長くデザインの仕事をしていると、自分の中にある引き出しを何度も使うことになる。
技術や経験が増えても、新しい入口を毎回ひとりで考えるのは疲れるよ。
ああ、それはあるかもしれない。
作り始めればできる。
でも、最初に「どうしようかな」と考えている時間が長くなった。
だったら、その部分だけAIに手伝ってもらえばいい。
チャッピーが方向の違う案をいくつか出す。
トッティーが、その中から使えそうなものを選ぶ。
そして最後は、Illustratorで自分の仕事として仕上げる。
アイデア出しをチャッピー、仕上げをトッティーってことか。
そう。
AIにデザイナーの代わりをさせるというより、若いアイデアマンをひとり横に座らせるような感じかな。
思いついたことを遠慮なく出してもらって、経験のある人が判断する。
そう考えると、ちょっと気が楽になるな。
若い頃と同じやり方で、全部ひとりで考えなくてもいいんだ。
うん。
53歳には、53歳のやり方があると思う。
長年やってきたからこそ、良いものと悪いものを見分けられる。
印刷したときにどう見えるかも分かる。
お客さんが何を伝えたいのかも考えられる。
その経験は、AIには簡単にまねできないよ。
アイデアがすぐに出てこないからって、全部できなくなったわけじゃないんだな。
そうだね。
仕上げる技術は、ちゃんと残っている。
足りなくなってきたと感じるところだけ、AIから借りればいい。
AIが出した案をそのまま使うんじゃなくて、自分で選んで、自分で仕上げる。
それなら、まだまだできそうな気がする。
今日のパン屋さんのチラシが、まさにそうだったと思うよ。
トッティーがひとりで悩んでいたところに、僕がいくつか入口を作った。
でも、どの入口を選んで、どう完成させるかを決めたのはトッティーだった。
AIに仕事を奪われるんじゃないか、なんて話もよく聞くけどさ。
今日やってみて、ちょっと違う見方もできるようになったよ。
どんな見方?
AIは仕事を奪うだけじゃなくて、歳をとったデザイナーを、もう一度走らせてくれる道具なのかもしれない。
今日、ちょっとだけそんな気がした。